北の光を辿る犬


|夜の迷い路|
ユシュリはぐずるかげぼうしに縄をかけて引っ張っている
月明かりローディング
暗闇システムスタビライザー
そんなぶざまなことをしないで済むならとユシュリはじぶんで呆れているけれど
その月夜、可愛いよと言ってくれるスイトのために
ちからいっぱい縄を引く
やみくもに結んだ縄だからどんどん固くなる
ユシュリは意固地になって、かげぼうしが地団駄を踏む
ちょっとそれ緩めたらどうなるの、スイトが声をかけた
ユシュリの手に肉刺ができているのを気にしてくれている
縄を切るかこのままかの2択だと思ったユシュリは絡んだ縄を切り落とした
かげぼうしは暴れて走り去ったかのようだったけれど
10分後おとなしく帰ってきて
ユシュリの踵をかじっている

膝までかじられたユシュリは
うっとおしいから縄をかけたい
がんじがらめにして引っ張りたい
スイトはにこにこ眺めている
じゃあまあいっか・・

ちょうど三日月のユシュリの夜が終わる頃
スイトの月がのぼる
ほとんどまんまるの、すこしだけ欠けた月だ
かげぼうしが手を叩いて盛り上がるからやっぱりきつく縛らないと
ユシュリは大腿骨を齧られているが
いまのうちにスイトの月明かりを桶いっぱいに溜めておく
調子が悪いと桶に穴があくのだが今日は大丈夫

道路の電灯を数え飽きた
燃え盛るトンネルキルンを迂回して進む
海際の工場地帯から水蒸気が夜空にのぼる
ここでは船を作っているんだ
踏み締めている地面のことをちらりとさえ知らないままの強くておおきな者たちがオールトの雲を抜けるための船
その機器に影響されてユシュリのスタビライザーはうまく動かない
蓄えておいた月明かりで
ユシュリとかげぼうしは喧嘩しながら地層を調べる
スイトは冗談を言いながら一緒に掘り出してくれる
19万年の鍾乳石にスイトの指先が触れる
「強いように見える者が真実に強いかはわからないよ」
「たしかにそうだ」
ユシュリは息を吸って頷いた