|小さな羽ばたき|
スイトが本を読み終わった
内容をわかりやすくユシュリに話してくれる
だからユシュリは本を自分で読むよりもスイトから聞くほうが好きだ
蝶の羽の模様はおひさまのひかりを受けてほんの少しの温度差をつくり
空気抵抗を減らす働きがあるんだよ
スイトが楽しそうに手をひらひらさせた
気難しいと誤解されるスイトがほんとうは公平でどこまでも優しくて
彼を可愛いと形容するのは自分だけと
ユシュリは宝箱の秘密より大事に鍵をかけている
つまり涼しい洞で守られている
街に出れば悲しい話や辛い話が溢れているのに
スイトはユシュリが耐えられそうな話だけを聞かせてくれる
猫舌に優しいスープとふかふかのベッド
心踊るおとぎ話と髪を撫でる繊細な手
たまに離れ離れになってもお土産を買ってきてくれる
チョコレートをお供にホットワインを味わいながら
ぽこぽこ浮かんだ考えをそのまま話せる
信頼がある
ユシュリはずっと気がついている
このままでいいわけがない
もらった分以上の愛情を返したい
できそうなことは全部やることにした
自分で本を読み外に出ていく
ポトフを作って
お互いに出来事を話しあう
スイトの喜ぶことをなんでもしたい
大好き、とひとつキスを贈ると
知っているよ、とたくさんのキスが降ってくる
ふたりで笑いあう
彼らの透明な羽の斑紋がきらきら瞬く
いつものように街は猛毒を吐いているけれど
手を繋いでどこへでも行こう