北の光を辿る犬


|願掛け|
塚とも山とも言いづらいこんもりした森のなかに、お狐様がいらっしゃいます。
真紅の鳥居の奥のまた奥に座っているのです。
ふもとの鳥居の外側でお参りの者があいさつしました。
だいたいはここで礼をして去ってしまうのですが、今日の者は社まで来たいようでした。
夕日は寂しく山の影、古びた参道はどこからどうなっているのか道なき道をこわごわ進もうとしています。
それに加えて気もそぞろで足元がおぼつかないようです。
哀れにおもった銀狐が一緒についていってやろうと姿をあらわしました。
「わあきれいなお狐、怒りにきたの?案内してくれるの?」
ちょっと先で振り返り待っていてくれる姿に安心したようで、お参りの者はくしゃっと笑って歩き出しました。
けれど銀狐はすぐに気がつきました。からだのどこかがつらいようでゆっくりしか歩けないようです。空気がきれいでいいねえとにこにこしながらしとしと泣いています。
悪霊ではないからいいかと思いなおし、宝物を少し見せてあげることにしました。
その座り込んだ倒木にルリホコリが顔を出しています。暗くなったら見えなくなるからと銀狐は指し示しました。
「紫色でかわいいね。まるいね。」
そうだろうと銀狐は頷きました。
また歩き始めたはいいのですが、登りです。なんどか躓いていて銀狐は心配になり立ち止まってあげました。サンゴハリタケがいたのでそれも見せてあげます。
「白くてかわいいね。つんつんしているね。」
よじ登るほどの傾斜がおわり、またなだらかに山道が続きます。腐葉土を踏み締めて一歩ずつ前に進みます。
あたりは暗くなってしまって正しく歩けているのかわからず、ほのかに光る銀狐にかろうじてついていくだけです。
疲れ果てたのを見てとった銀狐が、ちょっと高いところを指しました。うつむいていたところから視線をあげると、ツキヨタケがそっと光っています。
「不思議でかわいいね。見せてくれてありがとう」
そうしてところどころのツキヨタケに励まされ、やっと社の鳥居まで着きました。
狛狐と銀狐がお互いにあいさつして、お参りの者は礼をします。
鳥居の端を通り、社の前まで銀狐はずっとついてきてくれます。
お供えをして、お狐様に祈ります。
桶に穴があいてしまいました。どうか穴のない桶を作れますように。穴を塞げますように。
お参りはこれで終わりです。あとは麓に戻ります。
下りは近道があるのを銀狐は教えてあげました。かつて人間が階段を作ったのが、いまもあります。銀狐はここでお見送りです。この先はひとり。転ばないように慎重に足を運びます。
手すりにつたう朝顔が咲き始めています。夜明けが近いとわかります。ほどなく空が白んできました。
もとの鳥居まで辿り着き、お参りの者はにっこり笑って朝陽に消えました。

狛狐と銀狐が話しています。狐火がゆらゆらまわりで遊びます。
それであの者はなんだったんだろうか。桶を望んでいたけれど。
もとは樹氷の妖怪だったんだ、人間と伴侶になったからふだんは人間に合わせているんだよ。それにしても桶とはなんだろうね。
もらえるといいね。
そうだねえ。