北の光を辿る犬


|塩|
呼び覚まされるひび割れに塩が積もる
どうかしたの、の一言を決して引き出さぬように
快活さを纏って笑う
興味の矛先で突かれることも
気遣いの延長で爪がひっかかることもあるけれど
他意はないと知っているのだから
じわりと滲みだすラック・ローズをこらえて
柔らかい手を握る
「寒くしないんだよ」
優しい水が塩湖にひろがってひび割れが平らになり
足もとへ勇敢な空を映している
指ごと握って
首の匂いを嗅ぐと温かさが立ちのぼる
とびきりの御褒美だ
それでも波立つようにはさせない
赤い塩の湖にいるのは記憶の案内人
丁重な礼を終えてから
左の手根骨と引き換えにきっぱり封じてやろう