北の光を辿る犬


|頃あい|
紅い河口には人魚の財布が落っこちている
遡ると群青の分岐路に突き当たる
寄り道の三日月湖は暗緑色に賑わっている、太陽を食べるくらげが浮いてきた

星降る調べはあの子の音色
あれを白、むこうを黒というのだよ
あの子の教えた色は関節ごとに染み込んでいったのでいまでは立派に十色の髄漿をしている
忘れがちだけれどそれはすぐにでも思い出すといい
我儘勝手なあぶみ骨に聞こえていようがいまいがもらった旋律は虹色の血球だ

もこもこの角とぴくぴくそばだてた耳ふたつ、瞳は黒くてかなりおおきい
枯草模様とは違って首の長い猫がしなやかに跳躍して蛇を叩きのめす
プヤライモンディの決死のお祝いへぞくぞく集まる甘露採り

滴る蜜はあの子の薫り
美味しい匂い、日向と日陰の埃の匂いの相違がわかるかな
教わるとほどなく市松に花菱に雲立涌までやたらな肌触りの匂いに囲まれた
白金色のおめめに凛と張った耳から睫毛にしても甘い薫りがこぼれている

滑らかな雪森にかかるオーロラと流氷を透かした極寒の光輪
暮れなずみ薄い紫桃色は銀灰のおぼろな酒盛りになる
讃える味を知っているかな、おさじで掬ってくれたのは美味しいこころ
そんなにたくさん口に運んでくれたりしたら無くなってしまうのではと恐れたけれど
無尽蔵だとおかしそうに笑ってもうひとくち
光沢のある緑の実はからい、くすんだ夕陽は甘塩で、正午の日差しは辛い酸っぱい、真夜中はとろり優しい甘さ、美味しいのでつい食べ過ぎてしまう


じゃりざりと砂ばかり頬張ってアスファルトの塵の匂いしかわからず夜と朝と不味い油だけ舐めていたことを
ぽっくり忘れてしまっていい頃あいだ
もう、いい