|北緯69度|
流氷の浮かぶ静かな入江で
グヴズルンが北極狐を助ける
お腹が減ってうずくまり雪に埋もれかけている
おこぼれをもらおうと北極熊のあとをついていっていたのだけれど見失った
グヴズルンはその食べ残したアザラシをさっき通りすぎた
案内しよう
北極狐がおぼつかない足取りで進むのに合わせてゆっくり戻る
さっきまでの吹雪は鎮まって雪がすこし舞っている
離れた流氷の隙間からシャチたちがかわるがわる顔を出している
波を起こして氷上のアザラシを狩ることができる家族だけれど
いまは遊んでいるようだった
北極狐は必要な分を素早く食べた
うん、なんとかこれで大丈夫ありがとう
内陸に向かうトナカイの群れが遠く、地吹雪に煙る
北極狐だけが知っている秘密を教えてあげる
トナカイの瞳の色は変わるんだよ、夏は金、冬は青
土星の極地の六角形も色が変わるんだよ、金から青、青から金
トナカイは土星が恋しいんだ いつか土星に帰ると思っている
その願いが瞳に籠っているんだよ
どうしてそれを知っているの、トナカイに聞いたの
記憶は遺伝する
トナカイはふるさとの土星の六角を生まれたときから知っている
北極狐はそれを口伝えているんだ
北極狐には生まれた時から知っていること、なにかある?
僕らはずっと遠くの外から来たよ、冥王星のとこのカロンでひと休みしているあいだに太陽系から出られなくなって、だんだん落っこちてここにいるの
夏ならえぞわたすげがふわふわ群生している原っぱもいまは雪に祝福されてまっしろけ
遠くに氷河が見えている