北の光を辿る犬


|金星の光る|
この島には高い滝がひとつ、広い滝がひとつあります。
高い滝は柱状節理に囲まれて、海にそのまま注いでいるのです。
暗い灰色の狼が雪原から顔を出し、少し歩いて崖のふちに来ました。
そして滝から海を覗き込んでいます。
夜明けの淡い闇のなか、滝壺に寄せる北の荒波を見続けていると、しっぽに黒い模様がひとすじ入った狼が近づいてきました。
「なにをしているの」
「探しているの」
「無くしてしまったの?」
「もともと持っていないような気がする」
「きらきら?ふわふわ?」
「きらきらかな・・いや待ってふわふわかも」
「一緒に探そうか」
「ありがとう」
ふたりは滝を遡ることにしました。
川辺は凍っていてうっかりすると踏み抜きそうです。水鳥が流れの緩やかなカーブでぷかりと浮かんで楽しそうです。
川の幅がだんだんひろがり岸の氷が厚く大きくなってきました。
そうして育った氷が岸から離れて流れの真ん中で丸くなり、ゆっくり回っています。
ちょっと乗ってみたいねと意見が一致したふたりは慎重に氷へ体重をかけました。
狼2頭分の重さくらいでは氷は割れることなくゆらゆらくるり、目が回りましたが対岸に渡れました。
土手からすぐのところに三日月湖が凍りついています。
朝陽が差して湖面が見渡せます。きのうの風で雪が飛ばされて氷結しているのがよくわかります。
今朝はしんと静かに凪いでいます。
「湖面に花が咲いているね」
「氷の花だね」
フロストフラワーを踏まないように気をつけてふたりは湖を軽やかに走り抜けます。
足元の氷の中には泡が閉じ込められていました。メタンが少し湧くのかもしれません。
「このあいだ発見したんだけどね、優しさって光りながら溶けるんだよ」
「優しい狼はさいご光って溶ける氷になるのかも」
「人間に殺された子もみんなきらきらの氷に還る」
「そうだね、そうだといいね」
湖のなかに岩が突き出していて、湖面が凍る前の水飛沫が岩肌につららのようになって凍っていました。登ってみたら、ゆるやかな丘の向こうから朝日がちょうどのぼるところでふたりは目を細めました。
湖の端っこまで走りきると、川沿いに戻ります。
両岸から頼りない木がまばらに生えて、蒸気でけぶる川面へ枝を垂らしています。
川が蛇行しているから雪原を行くことにしました。
しばらく黙って進むとひろい滝が見えてきます。
いくすじも滝が流れ落ち、そのはしっこのほうは氷瀑になっていました。
流れのつよい真ん中はなかなか凍りません。
滝壺から少し離れた岩は雪をかぶってまるく白く佇んでいます。
遠くまで飛沫が風に乗り、狼は体をぷるぷる震わせました。水飛沫で半端に溶けた雪がまた凍って肉球が滑ります。
遠回りしないと滑ってしまって滝を越えられそうにありません。
怪我をしないようにふたりはかなり迂回して崖を登ります。
滝を越えると視界が開けました。むこうの山裾に氷河と入江が見えます。
いままでたどってきた川の水源です。
ふたりは氷河を目指してまた歩き出しました。
途中で休憩もしました。雪を掘って窪みをつくり、そのなかで丸くなります。足がまだ痛いですが氷河の麓まで到達したい一心でまた進みます。
空は曇って風が吹き始めました。
川沿いは大きな瓦礫が増えてきたのでまた雪原に道を戻します。夏には背の低い草や小さな花やわたすげがそよそよします。それはそれでいいのですが、今は一面まっしろでとてもきれいです。
氷の青に乳を混ぜたような不思議な色の湖に着いたらそれは氷河に着いたのと同じです。
割れた氷河がきらきらの大きな塊になって岸に打ち上げられています。
氷河湖は海につながっていて、入江でもあるようでした。
砂浜に狼よりも大きな氷河の割れたのがたくさんあって、薄い夕日を浴びています。
きらきらです。
ふたりはそっと寄り添いました。
ふわふわできらきら。ここはきっと優しい狼が溶けていった先なんだと思いました。
「見つけた?」
「ありがとう」

次はなにを探すの
次はね・・一緒に決めよう