北の光を辿る犬


|北極星が見えなくなって|
海の底のまっくらやみでは鯨の熾火が目印になる
ぽつりぽつりと続く先には惑いの白いスケーリーフット
そうして歌がこだまするほどに下がっていくと南極周極流に手が届くはずだ
湧昇流に乗ることもできないで途方もなく長い道のりに思える
天砂りくは名前を失った魚たちを見るにつけ、言い知れぬ不安に目が回り、ここのところ焦りがちだ
ソファに寝そべって犬を抱え、辞書を読むようなことをしばらくしていない
日々の虚ろをぬぐいきれずにいる
これが平穏、これが自分の求めていた暮らし、わかっているのに
けれどイルリサットは急ぐことはないとお酒をのんでいる
うねりが弾けてそこらじゅうに飛沫がかかる
身を起こしてイルリサットがりくをぎゅっと抱きしめた、大丈夫だよ
小さな宝石を買いに行こうか。気分転換だよ。
犬が一緒に行く気満々、伸びて身震いをしたのでふたりでにっこり笑う
お留守番だからね、よろしくね
きらきらの石をつけて今より少し綺麗にしても、好きなときに辞書を眺めていいんだ、それは矛盾しない
イルリサットはりくに歩幅を合わせながら言葉を選ぶ
本質は変わらないのだから楽しい今を縒り合せていこう
りくは短くうなずいた
ありがとう、そうしよう。さあ宝石楽しみだな。
小さいのしか買えないよ。
いいよ、小さくていいのです、滅多にしないようなことをするのがいいんだから。