|雨を呼ぶひと|
暑くて暑くてぽろぽろ泣いている
泣きたいだけ泣いていいよ
イルヨシュが肩に手を置いて優しく叩く
前は朝霧が心地よかったけれど
いつのまにか無くなった
カランシーヤは泣きたくない
イルヨシュだって暑いのは同じ
ずっとふたりで越えてきた夏が
知らない苛烈さを湛えている
お酒を飲むと少しマシになると言ってほろ酔いで揺れているから
「心配するよ」
イルヨシュはお酒を取り上げた
竜血樹の木陰で一緒に座り込んでいる
「沢まで行こう」
イルヨシュが促した
抱きしめてくれると風が吹く
涼しい声にこころがほどける
ひとつめの沢は干上がっている
ひび割れめくれた川底を歩き
ふたつめの沢に着く
ここは小さいけれどきれいな水がある
大好きだったあの子を犠牲にして逃げた
飲み水が無いと怒りを受けるのは自分の役目だったのでは
放棄して誰かに背負わせ自分だけ幸せなんて許されない
カランシーヤのなかで現在と昔話が混ざっている
体に回ったお酒を薄めなくちゃ
イルヨシュが透き通った水を汲む
「飲んで」
それからあの子を悼む日を作ろう
イルヨシュが写真を探す約束をした
残った最後の一枚の写真
償うにはどうしたらいいのか、カランシーヤは向き合えない
いまも見知らぬ誰かを身代わりにしている
こんな暑い日はイルヨシュという幸せを拒んでしまう
かといって呪いで膨れ上がった生き霊を鎮めることは引き受けられない
どっちつかずでただ泣いている
イルヨシュは辛抱強く慰めている
全員を救うことはできない
カランシーヤを助け出せてよかった
次第に雲が垂れ込めて
ざあっと雨が降り出した
久しぶりの恵みに川が息を吹き返す
からからに乾いていた底に水が浸み
ささやかに流れ出した川の先頭に立って誘導するように追いかけるように歩く
水嵩が増えてきたからふたりは土手に登って行先を眺めている
「自分も大変だったのに、ありがとう」
カランシーヤの呟きにイルヨシュが振り返った
雨音に負けないようにもう一度言った
「ありがとう」