北の光を辿る犬


|旅の計画|
「1階は火山と低地、2階は塩湖、3階が草原で4階が山脈、5階は砂丘、6階は海岸、7階は橋、8階が氷河です。行きたい階が決まった方はこちらへ。そこのひと、押さないで、並んでください」

ささやかな翼のジャッカルが訪問客を案内している。
ジャッカルが忙しそうだったからわたしたちは犬に尋ねることにした。コヨーテは荷捌きに奮闘していて、ディンゴは警備の者と話している。みんな忙しいのだが、犬が先客を誘導したあとに困っているこちらに気がついてくれた。ありがたい。
「すみません、はじめてで。このチケットなんですがいいですか」
「おやまあ、大丈夫ですよ。どこに行きますか?」
「最終的には橋なのですが塩湖と海岸で迷っていて」
「塩湖はいま深いほうの塩湖です。浅いのは時期はずれで」
「そうですか、では海岸にしようかな」
「いってらっしゃい」

海岸に行く人はあまりおらず、待たずにエレベーターに乗ることができた。中は狭いけれど古いなりに清潔で、ボタンは地下たくさんから地上8階まである。ずいぶんゆっくりなようで上がっている感覚はかすかだ。
6階の表示が慎ましく光り、音もなく扉が開くとそこは崖の手前の原っぱだった。階段を降りると遊歩道が海へ続いている。
海岸は絶壁が続き、端では滝が海へとじかに注いでいる。滝壺は寄せる荒波にかき消され、北風が陸に向かって吹いている。崖からの上昇気流に乗って島を巡る想像をする。
やっぱり海岸にしてよかった。きっとここにまた来る。あの子のルーツに近い島だ。北極からの風に溶け、痩せた土の匂いを嗅ぎ、浜の海藻を踏む。
「橋は今日はやめておく?」
「そうだね。混み合っていたからね。」
「じゃあ帰ろうか」
ふたりで話しながら戻り、下がるボタンを押して少し待ち、エレベーターに乗り込んだときにはたと気がついた。
地下が10階まである。地下のどの階から来たか覚えていない。
「えっ何階だっけ」
「待って、ええと、地下7階だ」
すばやくボタンを押してくれる。エレベーターは何事もなく動き出した。
「すごいね!覚えていたの」
「いや思い出した、乗り込む時に見た階数を」
「ありがとう、帰れなくなるところだった」
「ここのあたりにあった数字、書体まではっきり覚えているよ。ヘルベチカ・ノイエ!」
「さすがだね、ありがとう」
地下10階に迷い込んでいたらケルベロスに怒られるところだったとあとから知った。
地下7階で降り、人混みを縫って背の高い扉から出て陸橋を渡る。
そうして大好きなあの子の待っている家に帰る。いつか一緒に来られたらいいね。