北の光を辿る犬


|ほのかに甘い|
涼しい風が吹き始めた頃グヴズルンは鉱物の展示会に行くことになった
上司だけが行く予定だったけれど一緒に来て欲しそうにしていたから
グヴズルンは作業の手を止めて出かける用意をした

宝石、仮晶、化石、オパール、真珠、お小遣いで買えるくらいの欠片から売る気のない値段設定の珍しい宝石まで幅広く楽しめる
中に違う石を取り込んだダイヤモンド、ときには氷を内に抱えていることもあるんだよ
奇想天外な話を売り手が自慢していると
ダイヤモンドがグヴズルンを呼び止めた
隣のオケナイトとお話してみたいんだけれど
熱伝導は相手と合わない、電気はお互いにほとんど通さない、光の反射で話しかけてもなんだかうまくいかなくて
嫌われてるのとはちょっと違いそう、相手もなにか伝えてくれている気がするんだけれど、受け取れない、なにかいい案はないだろうか
オケナイトはガラスの箱の中にきっちり置かれている
上司は向こうでユキヒョウと世間話をしているから、ちょっとなら時間がある
グヴズルンはダイヤモンドの相談を聞くことにした
普段はダイヤモンド同士ならどうやって話すの
炭素同士だからわけなく話せるよ、でもあんまり話してもらえないけれど
なかに違う石が入っているから
そうか、ほかにだれか鉱石と話したことある?
ない
なんでオケナイトとは話そうと思ったの
なんだか頑張ったら話せそうな気がしたんだよねえ
君の中にはどんな石が入っているの
よく知らないだって好きじゃない
そんなに悪くは思えないけどな、でもそう思うのもしかたないね
ユキヒョウと話し終わった上司がグヴズルンを呼びにきた
上司は特に買うものがあるわけではなくいわばこれは偵察である
グヴズルンが、もうちょっとこのダイヤモンドにつきあうと言うと上司はじゃあ東ホールはひとりで回ってこようと頷いた
ダイヤモンドがグヴズルンの注意を引く
オケナイトがなにか自分に言ってくれている気がする、うーんどうしたら
うーん
しばらくふたりで知恵を絞るが、グヴズルンとオケナイトは話せない
グヴズルンだって鉱石と話すのは今日が初めてだ
仕事でたくさんのダイヤモンドを見てきたけれど、だれひとり話さなかった
ときどきグヴズルンは、話ができたらいいのになと思っていた
この変わったダイヤモンドにわくわくしている
とにかくせっかく話せたのだからなにか力になりたくて、グヴズルンはオケナイトの透明な箱にそっと触れた
確かになにか言いたそう
やっぱり君のなかにある石をよく見よう
グヴズルンが提案した
オケナイトはカルシウム、ケイ素、酸素、水素、でできている
ダイヤモンドはもちろん炭素
うう、やだなあ、ダイヤモンドがこわごわながらちょっと考え込み、
ガーネットっぽいかなと答えた
グヴズルンは慎重に勧めた
ガーネットといってもいろんな子がいるけれど
「そのガーネットのケイ素と酸素でオケナイトとお話しできそうじゃない?」
そんなことやってみたことない、できるかな
試すだけでもやってみたらいいよ
いままでなるべく意識を向けないようにしてきた存在に、こんどはぎゅっと集中するのだから
そわそわします、気がそれます、いえいえもっとがんばって
こんにちは
ダイヤモンドはまずあいさつと思ったのだ、そして
はじめまして
オケナイトも同じように思っていた
「わわわ話せた、グヴズルンさんありがとうございます」
「それはよかった、じゃあね、お話楽しんでね」
ちょうど向かいのホールを見終わった上司がグヴズルンを迎えに来た
「うまいぐあいに終わったようですね」
「おかげさまで」
「では会社に戻りましょうか」
外は過ごしやすいが展示場の中は暑く、上司が冷たい缶コーヒーを買ってくれた
グヴズルンはお礼を言ってふたりは歩き出した