北の光を辿る犬


|トリガーを待つ|


カーモスにぴったりの重く甘辛い旋律でした

シェラーグはカーモスに身を寄せます
1時間だけの休憩だ、これが終わればカーモスはまた外の世界へ出かけてしまいます
シェラーグは、カーモスと離れることをおもうと胸が引き裂かれるのです
自分だけはおめおめと守られている
伴侶はひとりで戦いに行くというのに

どうすればいい、なにが正解だろうか
風雪の中狩りにいくのは違う
もしクレバスに落ちたらカーモスをまた悲しませる
いまはまだじっと樹のうろのなか身を潜めているのがシェラーグのやるべきこと、
亡霊の暴れまわる春にむけてちからを温存しておくことです
シェラーグは己を奮い立たせるために歌を口ずさみました
魔物の森ではこの曲に限らずよく歌いました
こちらの世界に来てからずっと喉につかえて歌えなかったのですけれど
とうとう封印は解かれました

この音楽はまさしくカーモスが教えたものです
戦闘のための調べはカーモスに絡まりつぼみを膨らませとりどりの花火を打ち上げます
綺麗だなとシェラーグは見惚れました
かつて、舞いの神聖さをその身に宿してカーモスは剣を振るったものです
ときに鬼人と忌避されても、見返りを求めず世界の均衡をもとに戻すために歩いたものです
隣をゆく柔らかで厳しい肩を思いだすとシェラーグのなかの勇気が息を吹き返します
この心臓に巣食う狂った花をコントロールしてみせる
己の力の一部として消し去るのではなくて利用してやる

調べが滝となってシェラーグの背を押し、鼓舞します
魔法使いだった過去を捨てて未来のために変質しようと爪先から両手の指までチカチカ透き通らせます
カーモスに咲いた花火がシェラーグにもまといつき、弾けました

どう足を運んだらいいのか知っているはずです
鉄条網をくぐり抜け、息の切れない走り方で、吹雪を味方につけるのです
雪が足跡を消していき、氷の樹木が道をあけました
湯気の立つ河原でひとやすみをしてもいいのです
なんにせよ、シェラーグの傍にはあの旋律とともに必ずカーモスがいるのですから


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