|氷瀑の精霊と灰色狼の王子|
国の王子が成人したお祝いで街はお祭りをしていました。
愛情深い狼の国の民たちは、王子が生まれた時から自分の弟のように思い
成長の節目で喜びあい今日の日を迎えました。
賢い瞳と凛とした声、けれどおっとりした性格の王子はほんとうに国民に好かれていたのです。
お忍びで城下町に来られることがあってもみんな手を振ったりお辞儀をしたりしたい気持ちを抑えてそっと気付かぬふりで見守りました。
街のお祭りでは陽気な国民たちがはしゃいでいましたが、狼たちは基本的に素朴で誠実ですから華美が過ぎるようなことは好まれません。
お城の式典は簡潔に王と王妃と王子がご挨拶されて、お祝いに来てくれたいろんな国の王子様や王女様もシンプルに祝辞を述べていったん終わります。夜に晩餐会がありますのでそのときに王子と話せるのをもちろん楽しみにしているのです。
さらには狼の国と縁のある神様や精霊たちもお祝いに来てくれていました。
オーロラの神様、朝露の神様のご子息と霜柱の神様のご子息、雪雲の神様、溶岩の精霊とそれから氷瀑の精霊。
明け方までしんしんと降っていた雪も昼前には止みました。新雪にふちどられてお城がまるく光っています。
国の子供たちは雪遊びに精が出ます。
まだ人型をとれない幼い子もふわふわの雪のなかで跳ねています。
城下町の様子を見られるお城の塔の窓から、王子は微笑ましく眺めておりました。
さきほどの挨拶にちょっと緊張して疲れてしまったので休憩することにしたのです。
しばらく眼下のお祭りを観察してから王子は中庭に戻ります。庭園の木々はもこもこ雪をかぶり、池も氷が張ってそのうえに雪の層があります。造られたちいさな滝もほとんど凍っていましたがひとすじ水が流れ落ちているようでした。
この広い中庭も今日は外に開放されていて、国民たちが遠くの池の雪をどかして氷に閉じ込められた泡を見つけてはこんこんと触ってみています。
王子は夜の晩餐会をおもうとまたちょっと緊張してそわそわしてしまうので、凍った滝のちかくでゆきだるまを作ることにしました。そうしてうっかりゆきだるまに夢中になっていますと、ふいに王子に声をかける者がいます。
成人を祝う言葉だったので王子は無防備にふりかえり返事をしようとしましたが
相手の顔をみて言葉につまりました。
かつての敵国、人間の国からの使いの者でした。表面的には友好的なことばですがじろじろと不躾に値踏みしてくる視線が厭わしく、王子は一歩下がります。そうすると使者は2歩詰めてくるので王子は滝のふちまで追い詰められてしまいました。
人間の使者に明らかな敵意はありません。襲ってくるのなら応戦できます。しかしねちねちと嫌味なのかなになのかよくわからないことばかり言うものですから王子は対応に困りました。
狼の国のひとびとは王子のことが好きで好きで、悪意を持って接してくるような輩はいままでいなかったのです。
人間の使者はしつこく王子の見た目を褒めることにしたようでした。
「雪景色のなかでさらに美しいですな。いやあお美しい。」
「お控えください。わたしはそのように見た目を言われることを好みません」
「褒めているのですよ。なにがいけないのか、美しいことはいいことでしょう。王子の美しさならどこの姫でも選びたい放題ですな。」
そして使者は王子に触れようとぬったり手を伸ばしてきました。無礼極まりない、ということよりも王子は気持ちが悪くてぱっと手を払い除けようとしました。そのとき王子と使者の間に氷の壁が現れて無礼な手を阻みます。
「王子から離れろ、この恥知らず」
そのまま氷の壁は使者を取り囲み封じてしまいました。
氷瀑の精霊が王子に駆けよります。
「あっ、ありがとうございます」
王子はさきほど祝辞をくれた氷瀑の精霊を覚えていましたから、にこっとお礼を言いました。
「護衛もつけずに何をしているんだ王子だろ」
氷瀑の精霊はしかめっつらです。その乱暴な言い方に王子はくすりと笑います。式典でみんなが丁寧に祝福する言葉を贈るなか、氷瀑の精霊だけ砕けた口調で祝福しましたので神様たちが苦笑いしていたのです。
「フォス様、助かりました。しかしこのひとをこのままにするわけには」
「そんな分厚い氷じゃねえよ、殴れば壊れる。自力で脱出するんだな。」
「ええと、頑張ってください」
王子が使者に哀れみの目を向けると氷瀑の精霊がさっと王子の視線を遮りました。
「もうそんなやつにかまけてんじゃねえよ。帰るぞ王子。ほら」
氷瀑の精霊が手を差し出してきました。ほら、という言い方ですがその手を取るかどうかはちゃんと王子に委ねられているとわかります。迷っているとせっかちなのか気を使ったのか氷瀑の精霊が、城の地図もわからぬまま反対方向へ行こうとしたので王子は慌てて逆ですと手を握り返しました。小さな子みたいでおかしくて、王子がふふっと笑っていると氷瀑の精霊が振り返っていいました。
「様なんかいらねえよ、フォスでいい」
「いえ、そういうわけには」
「神様でもないただの精霊だろ、気にすんな」
「ではフォスさん」
「・・様よりマシか。ここまで来たら大丈夫だろ。」
氷瀑の精霊は乱暴な口調とは裏腹にそっと手を離しました。また夜に会おうぜと言い、迎賓館のほうへと歩いていくのを見送ります。
氷のひとなのに手があたたかかった、と王子は胸がぽかぽかしました。
そうしてフォスとレイリは友人になったのです。
フォスは国のお客として城で過ごすようになりました。
前にも客がいたことを王子がはにかみながらそっと言うから、フォスはじりっと嫉妬が燃えるのを自覚しました。
「父上のお客人だったのですが、とても博識な方でした。ちょうど世界が広いことをわかり始めた頃で、知りたがりの僕はなぜ、なぜ、と問うばかりなのに丁寧に説明してくれたのです。」
旅の竜人は若くして知識もありまた世界の成り立ちをよくよく考えているひとでした。王子は、彼の洞察力に憧れてまたお話できたらと願っていますと言いながらしかし俯きます。望みは薄いと分かっているのです。違う大陸へと旅立ってしまって以来、連絡が取れません。
「好きだったんだな。」
フォスは、慰めたくて柔らかな声になるよう努めました。
王子はほんわり頬を染めて首を傾げます。
「そうかもしれません。初恋といえるのか分からないですが」
初恋と言われてフォスが内心穏やかでいられないのには気がつかず、王子がフォスに耳打ちします。
「そのひとのくれた僕の宝物、フォスさんに特別にお見せします。こっちに来て?」
焼きもちの炎と同時に、内緒話にいたずらっぽく目を輝かせる王子の誘いに胸を撃ち抜かれてフォスは天井を仰ぎました。
宝物とはオケナイトでした。見た目はもふもふの石です。触ると崩れてしまうらしく、ガラスの箱に固定されています。
面白い石ですよね。にっこりにこにこ笑顔の王子からは、初恋のひとからの贈り物という意味だけではなくむしろ珍しい鉱物にときめいていると伝わってきます。
「王子は石が好きなのか?」
「見るのが好きです。詳しくはないのですが」
「そうか。俺も石を持ってるんだぜ。取ってこよう」
3日かけてフォスが持ってきたのは見事なルビーでした。
王子は感激して触れることもせず見つめています。
「フォスさんの宝物はすごいです。見せてもらえて嬉しいです。」
「やるよ。それ。城でなら指輪にも首飾りにもなんでもなるだろ。ほんとは珍しいもののほうが好きかもしれないけど、いま俺が持っている1番の鉱物はそれなんだ」
王子が言葉を失っていると、フォスが続けて言いました。
「俺はレイリを好きだ。王子として民のためにいつも心を砕いて、いろんなことを学び努力を惜しまないところを尊敬しているんだ。レイリは仕草が可愛い。綺麗なこころのそのままの目も可愛い。俺はレイリの特別になりたい。」
王子は頬を染めて、照れたり嬉しかったり胸がいっぱいのようでしたがきちんとフォスの目を見つめていました。
「僕もフォスさんが好きです。あなたは勇敢で優しい。いつも僕の歩幅に合わせてくれます。その気遣いが嬉しいです。それにフォスさんといると気持ちがふわっと楽になります。」
「・・すっげぇ嬉しい。抱きしめていいか」
レイリが頷いて両腕を差し出したからフォスは掬い上げるように抱き上げてくるくる回ります。
片手にルビーを握りしめてレイリはフォスにぎゅっとつかまりました。
その日からお城では仲良く手を繋いで歩くふたりをよく見かけるようになりました。春になる頃には国中の民が王子は氷瀑の精霊と恋人なんだと知っていました。
そう、春ですが狼の国は長い春休みがあります。
春はみんなが調子を崩すからです。わけもなくそわそわして胸が不安に引き絞られ、かと思えばイライラしたり、涙がぽろぽろ止まらなかったり、ベッドから出られなくなる者も少なくありません。狼の姿に戻ってやりすごす者もいます。
国内では休暇期間ですが、お城はそうもいかないのです。他国は春も動いています。レイリは気力で保っていましたが、やはりフォスから見るとつらそうです。
フォスのほうも冬のはじめに凍らせた滝を溶かしにいかないといけないですから、城を離れることが増えました。
しかし自室でぐったりしているレイリを置き去りにするのは心配です。
「大丈夫、毎年のことだから」
「慣れているかもしれねえがつらいのはかわらないだろ」
フォスは一緒に行こうと提案しました。凍った滝をすこしずつ調整して溶かすのに一晩でいくつもまわります。
「神様から馬車を借りてくるから待ってろよ」
そうしてフォスが乗って帰ってきたのは空飛ぶ馬車で、レイリは大変驚いたのでした。
オーロラの季節も終わりを迎えています。あかるい月夜でした。残り雪も少なくなってきて、道はところどころぬかるんでいます。これは歩いて回っていられないと納得です。
滝もほとんどが溶けて水が轟いています。フォスが手をかざすとかろうじて残っていた氷たちがすっとなくなって消えていきます。
レイリは馬車から身を乗り出していました。温い夜風にからだがざわつき眩暈がしますが、それよりフォスの仕事を見ていたかったのです。
国の滝から氷がなくなって、フォスとレイリはお城に戻ります。
「今日はありがとう。氷を操るフォスはやっぱりかっこいいね」
「そんなんじゃねえよ。ほら寝な」
ベッドのなかで毛布をかぶりフォスはレイリをぎゅっと抱き込みました。ふふ、とレイリが吐息で笑ってそして眠ってしまいました。疲れたのでしょう。フォスもしばらく起きていましたが、そのうち眠ってしまいました。
この国の夏は短く、ひとつきくらいです。日が沈まず夜中でもほんわり明るいのが落ち着かないものですから、春ほどではないにしろ狼たちは夏の間はあまり活動的ではなくなります。暑いのも好まれません。はやく秋にならないかなと心待ちにして日々だらりと過ごします。
夏はフォスが苦手な季節です。暇でつまらないのです。
朝露の神様のご子息と霜柱の神様のご子息が、去る月に神様をおやめになってご結婚されたので遊びに行こうかなとフォスは思ったりしていました。
「新婚のところをお邪魔するのはちょっと気が進まないかな」
気合いの入らないレイリが乗り気じゃないのでフォスもとたんにどうでもよくなります。夏とはそういう季節ですから。草原ではわたすげがふわふわ揺れています。植物たちだけが元気です。
暑い、明るい、蚊がたくさん。もういやだー・・と嘆きさえふやけたころ、やっと涼しい風が吹き始めます。
この秋の初オーロラが紅葉を連れてきます。
自室の窓を開け放して秋の夜風を楽しみます。
レイリが元気で嬉しい。フォスも来る冬に向けてわくわくしています。
最高気温はまだ高いこともあるけれど、最低気温がぐんぐん下がり、空気もからりと乾いてきます。お城の庭園は赤や黄色に彩られて賑やかです。
ある夜、レイリが王と話があると言い、明け方まで戻ってきませんでした。
フォスはすこし緊張しつつ恋人が戻るのを待っていました。きっとふたりの大事なことを話してくれているのだと確信がありました。
戻ったレイリがそっと扉を開けると長椅子にいたフォスが顔をあげてふたりの視線がぴったり合います。
「おかえり」
「ただいま」
それからレイリは息を吸って話し始めました。
父上はレイリに王位を継いでもらいたいとおもっていること。けれどレイリが王として国民に尽くすうちに、後をまかせたいと思うような狼と出会えたらそのときは自由になっていいこと。
「血筋にこだわるんだとしても、弟たちや妹たちがいるからあんまり心配はしてないんだ」
つまり心苦しいんだけど僕が王の間はフォスには王の伴侶をしてもらうことになってしまう。
でも自由になったあとは僕がフォスについていく。これでもフォスがいいならだけど。フォスは堅苦しいの嫌いでしょう。
レイリは心配そうな困った顔でフォスを見ています。それでフォスは反省しました。どれだけレイリを大好きでいるか、ちゃんと伝わっていないようだと。
「儀礼や作法なんかが必要なら身につけてみせる。ガラじゃねえけどな。そんなこと言ってらんねーだろ。俺はレイリと生きていたいんだ」
ありがとう。レイリはぱっと笑顔を咲かせたのでフォスは可愛くてたまらなくなってぎゅうぎゅうレイリを抱きしめました。
溶けあって眠る夜を越えて、何度目か数えきれない夜明けにレイリはふと目が覚めました。
狼の五感に加えてなにか仄かな感覚があります。少しうずうずするようなくすぐったい感覚は、それからだんだん強くなっていきました。
嗅覚とも違うなにかで、遠くの湖やかすかな地下水の存在を感じ取れるのです。水や氷に対して鋭く反応するようですが、分からないことが多いです。
レイリは公務の合間でフォスを中庭に誘いました。
「ちょっとお願いがあって…」「わかった」
「いや、まだ何も説明してないのに」
「レイリの貴重なお願い聞くに決まってんだろ、なんだよ?」
中庭の滝を凍らせてみてほしい、なんだか溶かせそうな気がするからとレイリは指差しました。
そして本当に、フォスが凍らせた滝をレイリは溶かすことができました。
ふたりはいろいろ試してみましたが、凍らせることはできないようです。
「春にフォスを手伝えるね」
レイリがにこにこするのをフォスはじとっと睨みます。
「無理ばかりしやがって。つらい季節にさらに働かせるわけねえだろ。寝てろ。俺の本職を取るな」
それもそうかな?ふふっと笑ってレイリはフォスの手を握ります。フォスは優しいなとレイリは嬉しく思います。
秋の終わりころ、国境で揉め事が起こったと聞かされて、レイリが向かうことになりました。少数精鋭のものたちと、フォスも当然ついていきます。
到着すると狩人とみられる狼国の住人が人間たちに取り囲まれています。
人間国の者たちには魔法使いもいるようです。
狼の武人が罵り合う両者に割って入り、狩人をささっと助けますが人間側から罵詈雑言が飛んできます。
そのなかのレイリを侮辱する言葉に腹を立てたフォスが輩を黙らせようと氷の矢を放ちました。
「だめだフォス!挑発に乗らないで」
レイリが間一髪、氷の矢を無効化したのでその輩は悔しそうです。
先に手を出したという口実を与えてしまったら、報復と言って戦をしかけてくるか法外な賠償を請求されるか、とにかく嫌なことにしかなりません。
狩人を保護できたからあとは速やかに撤退です。
しかしなにを思ったのか人間の国の魔法使いが炎で攻撃してきました。まっすぐレイリめがけて炎が走ります。冷笑したフォスが氷で盾を作るのと同時にレイリが炎を無効化します。やったレイリ自身もちょっとびっくりして両手を見つめました。
人間の魔法使いはもっと驚き何事かひそひそしたあとに一目散に逃げていきます。
王子、魔法が使えたんですか?狼の武人が尊敬の眼差しでレイリを見ています。
「うーん?魔法を無効化する魔法なのかな…」
戸惑うレイリに、フォスと武人が喜び合っています。
「それ最強じゃないですか王子」
「レイリがいたら怖いものなしだぜ」
褒めちぎられてレイリは苦笑いしています。
「まあ、今は助かったよね。でも僕のちからは分からないことが多いし、はやく帰ろう」
薄く積もった雪を踏みしめてみなはお城に帰りました。
冬のまんなかのころ、春に備えて城の大掃除をします。
一年かけてみんながぽいぽい放り込んだ「いますぐにはいらないもの」が積み上がっている倉庫に来ました。
レイリがやらなくてもいいだろとフォスはいやいやついてきましたが、もし強い呪いのかかった物があったりしたら危ないからと説得されて一緒に倉庫に来てしまえば文句を言いながらでも素早く手伝ってくれます。
ふたりが集中して作業しているのを見てお城の者はもっとはりきました。
今年の棚を作ってそこに保管するもの、お城には不要なもの、そのなかでもまだ使えるもの、捨てるもの。
「レイリさま!」
ひとりがなにか抱えてレイリに歩み寄ります。「こらおまえ先にこっちに見せろ」フォスが割って入ってその者の抱えている覆い布を勢いよく剥がしました。
褒められると確信して寄ってきた者はフォスの睨みにちぢこまります。
「フォス、それはなに」
「地球儀だな」
魔法の地球儀。国の名前、首都、住んでいる種族、山の標高、海嶺、海溝。南極と北極の棚氷の厚さ、南極周極流からの海洋大循環、偏西風、北極低気圧。ちょうど狼の国の裏側で嵐が発生していることまでわかります。
しかしリストにありません。だれがいつなぜ倉庫に持ち込んだのか、不明です。
フォスが目を凝らしますが悪い呪いの気配はなく、しんしんと地球儀はまわっています。
レイリは好奇心に満ちた眼差しで見つめます。フォスだけじゃなくその場にいたみんなが思いました。地球儀はきっとレイリに使って欲しくてここにいたんだな。
「これを僕のものにしてしまおうかな。冬が終わるまで。そのあとは図書に置くから」
「すぐ図書に置かないでしばらくは持ってたらいいんじゃねえの」
「みんなも見たいでしょう、こんな楽しいもの」
レイリにもらわれることになって機嫌のよさそうな地球儀をみんなは薄気味悪くおもいはじめました。
「いいえ・・そのうちいつかで大丈夫です、レイリさま」
「そうなの?ありがとう」
レイリが手に取るとほんのりひかります。フォスは面白くありません。なんだこいつ。危なくないけれど気に食わない。レイリが喜んでいるから水を差したりしないけれど警戒は緩めないぞと誓いました。
そのあとはみんなまた作業に戻ります。
夕方には仕分け終わり「お疲れ様でした」とお互いねぎらいながら埃まみれの狼たちが家路につきます。レイリは倉庫のリストをチェックして担当者に渡します。
魔法の地球儀は王子の部屋の書斎に落ち着きました。
いまも島弧・海溝系の話をしていてレイリが地球儀を持ってきたせいで、フォスはちりりと独占欲が燃えるのをお首にも出さずしかし今夜は朝まで寝かさない、と思うだけは思うのです。優しいフォスのことだから、レイリがもう無理と伝えたらちゃんと聞いてくれます。
そんなことレイリが1番分かっているのです。同じ毛布に潜ったフォスの頬に触れてレイリがにこっと笑います。
好きにしていいよ
いつも僕のこと気遣ってばかり
君にもよくなってほしい
フォスは悪ーい笑みで返します。
分かってねえなあ
レイリが乱れてるのが可愛いくてたまんねーんだろ
好きにさせてもらうぜ
だからこそやっぱりレイリが許しを請えば絶対に手加減してもらえるのです。